渋沢栄一を主人公にした大河ドラマ「青天を衝け」も終盤に差し掛かっています。明治に入って官職を辞し、実業家として活躍する渋沢の姿が描かれていますが、その最大のライバルとして立ちはだかったのが岩崎弥太郎です。言うまでもなく、三菱の礎を築いた男として知られています。
第34話では岩崎から宴席に招かれた渋沢が、考え方の違いから激論となり、決別していく場面がありました。たたき上げの経済人として自信満々の岩崎に対し、一歩も引かなかった渋沢ですが、そのキャリアには圧倒されがちだったと見受けられます。そこに助け舟を出してくれた人がいました。
それは、渋沢を見込んで一橋家の家臣に推挙した平岡円四郎の妻・やすでした。やすと渋沢は10数年ぶりの再会で、事情を察したやすが逃げ道を作ってくれたのです。やすは渋沢の考え方に同調していました。そこには、円四郎がかつて渋沢に説いた「おめえは、おめえのまま生き抜け」という言葉があったのです。
やすと出会ったのはフィクションだろうと思いますが、渋沢と岩崎が衝突したことは史実でも明らかですし、その後商船を巡って激しい競争が行われたのです。ただし、二人の目指すべき道は「経済力を蓄えて、日本を外国に負けない強靭な国家にする」ことで共通していました。違っていたのは手法でした。
経済を動かすためには、大きな資本が必要です。その資本を得る手法として、岩崎は「個人の力を巨大化すべき」としたのに対し、渋沢は「大勢の力を結集させるべき」と主張しました。どちらが正しい、あるいは誤っているというわけではなく、どちらも正論と言えば正論だったから、激しくぶつかり合ったのだと思います。
岩崎を演じる中村芝翫さんの圧倒的な存在感が、ドラマを引き締まったものにしてくれています。次週以降の渋沢VS岩崎の対決が楽しみです。