大河ドラマ「光る君へ」のなかで、公家の最高位にいる藤原道長の補佐役として、卓抜した職務ぶりを見せている人物がいます。それが藤原実資です。有職故実に明るいことで誰からも一目置かれる存在でした。
実資はそれらの知識を日記にしたため、後世に残しています。この日記は「小右記」として現在も読まれ続けているだけでなく、当時の政治や人間関係などを紐解くうえでの第一級の資料となっているわけです。
実資は当時としては珍しい長寿を誇っていました。そればかりか、80歳半ばまで右大臣として政治のトップに近い地位で活躍していたのです。ゆえに「小右記」の記述も60年以上という長きにわたり、まさに歴史の生き証人という存在だったのです。
過日、ビギナーズ・クラシック日本の古典シリーズの「小右記」を書店で購入し、750ページ以上の文庫本を時間をかけて読破しました。時代としては西暦1000年の前後で、ちょうど「光る君へ」と同時代にあたります。
「小右記」の面白い点は、単に有職故実のしきたりをまとめているだけではなく、その当時の世相やできごと、さらには天皇や貴族たちの人物像などにも触れ、そこに実資独自の解釈や感想を記載しているところにあります。
とりわけ、人物評価では辛口ぶりを発揮しており、藤原教通や藤原道綱や藤原斉信に対しては相当な過小評価をしています。言い換えれば、それだけ自分の才覚や博学には自信があったということでしょう。
藤原道長に関しても様々な記述が残されていますが、最も有名なのは道長が全盛期を満月に託して詠んだとされる「この世をば・・・」という句。「小右記」で記されたことで、後の世にも長く語り継がれるエピソードになったのです。
なお、大河ドラマで実資役を演じる秋山竜次さんが、同じ言葉を2度繰り返すという口癖をセリフの中に盛り込んでいますが、これは「小右記」でも繰り返しの意味である「々々」という字句を頻繁に使っていることに由来していると思われます。
ビギナーズ・クラシック「小右記」は、現代語訳と訓読文、漢文を併記し、編者の倉本一宏さん(日本古代史研究者)が解説文を載せていて、読みやすくてとても分かりやすい構成になっています。
「光る君へ」は現在、997年ころのシーンが放送されていますが、「小右記」を読むと、この先にも様々なドラマチックな出来事が次々と起こっていることがわかります。ドラマでどのように演出されるのか、興味深く見たいと思います。
★こちらは私の自著です